市町村合併と自治体の財政−住民自治の視点から〜静岡市・清水市合併計画の検証〜−  

瀬憲子(静岡大学)  2002年8月23日:大阪府高石市民会館

はじめに

(1)内外の情勢
・「平成大不況」、国家財政危機(国と地方の長期累積債務2002年度末現在693兆円という見込み)、不良債権・金融危機、少子高齢社会・ゼロ成長時代への移行
グローバリゼーション(経済の国際化、環境問題の国際化、アメリカ多国籍企業中心のグローバルスタンダード、国債格付けランク下げ)
・小泉内閣における構造改革
内政面とくに教育、福祉、医療分野の市場化、財政投融資改革など。
1000(300)自治体構想が構造改革の一つの柱に。「上から」の強力な市町村合併推進策。
(2)現代の市町村合併をめぐる3つの特徴
[1]地方交付税改革とセットの市町村合併政策
地方分権一括法施行以来、機関委任事務の廃止(自治事務、法定受託事務、国の直接執行事務への再編成)、国庫支出金の廃止・整理合理化、事実上税源委譲なし。   
広域的合併による地方分権の「受け皿」づくりと地方交付税廃止論。
「失われた10年」に何が起こったのか。
1990年の公共投資基本計画と地方単独事業の急増、「交付税措置」の拡大。
地方交付税特別会計借入金の急増(42兆円を突破、98年度から倍増)→人口規模の小さい自治体における補正係数の見直しによる大幅な交付税カット→「兵糧攻め」による強引な市町村合併推へ
★地方交付税交付金…地方自治体間の格差を是正し、最低行政(居住)水準を保障するために、国税5税の一定割合を地方自治体に配分されるもの。財政力が1を下回ると交付団体となる。
[2]開発優先の論理と行政サービスの合理化
広域行政への対応としての大規模合併による人口規模と財政規模の拡大 
合併特例債などの財政支援策、新庁舎建設を含む大規模プロジェクト中心の新市建設計画へ。投資の重点化による周辺部の相対的衰退問題。
行政サービスのアウトソーシング(民間委託)、PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシャティブ)の導入、人件費の削減(定員削減)、NPM(ニュー・パブリック ・マネジメント)の手法
[3]政府・総務省主導型の市町村合併と非民主的な合併協議会方式
形式的な住民発議による法定合併協議会方式(95年合併特例法改正以降)
有権者のわずか2%の署名と議会での決議によって成立、「合併を前提に」展開
非民主的で恣意的な委員選出
実質的な政府・総務省主導型合併方式
「指針」、「新指針」、都道府県に合併推進要綱作成義務づけ、合併支援本部設置
重点地域指定、総務省『合併協議会運営の手引−マニュアル』作成
(3)「地方分権」をめぐる議論
・本間正明氏らのグループ…『日本再編計画』(96年)、『地方財政改革−ニュー・パブリック・マネジメント手法の適用』(2000年)
中央省庁統合(5庁)、財政投融資廃止、大学・郵政三事業・特殊法人民営化、内政事務の地方委譲、北海道、東京都、大阪府を除く府県合併と道州制導入(12州への再編)、市町村人口30万人に再編し257府とするという案
・小沢一郎『日本改造計画』(93年)
300自治体構想(小選挙区と同じ)
経済戦略会議答申(99年2月)や与党3党合意(99年8月)1000自治体構想、道州制論→「新中央集権」あるいは「集権的分散」システム?  ★公共性=非排除性、非競合性
・神野直彦・金子勝編『地方に税源を』(98年)、『システム改革の政治経済学』(99年)、『財政崩壊を食い止める』
ワーク・フェア原理にもとづく所得比例税の導入提唱、高齢社会への対応を指標とした交付税への改革による分権化への道
・宮本憲一『日本社会の可能性』(00年)、宮本憲一他編『セミナー現代地方財政』(01年)
現代的地方自治確立のために、税源委譲と社会サービスの充実を通じた分権・住民主体型協同福祉社会論を提唱、協同経済社会システムと維持可能な発展論の提言 ★公共性=基本的人権
(4)市町村合併をめぐる動き
・市町村数の変遷(95年4月3234→01年4月3224→01年11月3223)
・合併に至った自治体例(95年合併特例法改正以降)
あきる野市(秋川市、五日市町)…95年9月1日、新設
鹿嶋市(大野村、鹿島町)…95年9月1日、編入
篠山市(篠山、西紀、丹南、今田の4町)…99年4月1日、一般市指向型、新設
新潟市(新潟市、黒埼町)…01年1月1日
西東京市(田無市、保谷市)…01年1月21日、新設 人件費削減や学校給食の民間委託、田無で住民投票形式による意向投票(53対47)
潮来市(潮来町、牛堀町)…01年4月1日、編入 一般市指向型、合併後の人口3万余。00年特例法改正で人口3万人以上で市指定(2004年3月までに合併した自治体を対象)
さいたま市(浦和市、大宮市、与野市)…01年5月1日、政令指定都市指向型 大船渡市(大船渡市、三陸町)…01年11月15日、編入
・住民発議総数は91件(41地域、176市町村)(2001年5月1日現在) 116件(63地域、255市町村)(2002年2月1日現在)
・法定合併協議会設置に至った件数23(11地域、34市町村)→26(14地域、147市町村)
・合併計画をすすめる自治体数110市町村(97年)、274市町村(99年)(朝日新聞調) 2001年12月現在、2026市町村(3223のうち約63%)が研究組織を構成(総務省調)
(5)市町村合併をめぐる論点
・メリット論とデメリット論
メリット…行政の簡素化・効率化、行政サービスの質的向上、投資の重点化、広域的事業の円滑化、都市財政の拡大等(広域的行政サービスへの対応)
デメリット…政治的代表の低下、域内格差の発生、負担格差の発生、地域生活体系の崩壊、福祉・防災など身近な行政サービスの低下等(狭域的行政サービスの低下)
・行政コストからみた最適規模論(新古典派経済学を中心)
人口20万から30万人の中都市が最適か?
現行の財政システム、政令指定都市、中核市制度などを反映した数値
人口一人あたり歳出(99年度決算):大都市55万円、中核市39万円、中都市33万円、小都市39万円、町村52万円
財政力指数:大都市0.82、中核市0.83、中都市0.86、小都市0.61、町村0.34
地方税比率:大都市38.3、中核市41.8、中都市46.1、小都市33.2、町村20.2
一律の議論ではなく、地域(都市と農村)における質の違いを考慮する必要がある。
(6)歴史的にみた市町村合併
第1次合併期(1888年市制・町村制施行、封建制から資本制への転換期におこなわれた自然村から行政村への編成替え、小学校義務教育への対応
第2次合併期(53年町村合併促進法から65年合併特例法、大都市化・重化学工業化への対応、6・3制の義務教育への対応)
いずれも一連の地方制度改革が実施された時期に市町村合併というパターン
税源委譲、課税自主権の拡充などの地方財政改革が「未完」におわる。
(7)課題
都市型合併…政令指定都市指向型、中核市指向型、特例市指向型、一般市指向型などの動き。政令市、中核市の場合に事務配分と税源配分のギャップ大。交付税依存型構造への転換。
農村型合併…地方交付税をめぐる問題が争点。ごみ処理、下水道整備事業、介護保険などの広域的行政事務や新たな事務への対応が中心。国の財政誘導による市町村合併がもたらす自治体財政への影響を歴史も含めて検証。広域的行政サービスと狭域的行政サービスのあり方、住民参加システム、 地域の持続可能な発展のためのシナリオをさぐる。

1.市町村合併に対する財政支援策とは

(1)99年合併特例法改正による支援策(2005年3月までの時限立法)
[1]地方交付税にかかわるもの
合併関係市町村が合併前の区域をもって存続した場合に算定される額の合算額を下回らないように算定する」特例期間を5年から10年に延長。「その後の5年度で当該算定による増加額を段階的に縮減」
臨時的な財政需要に対する交付税措置、補正係数での合併補正
新庁舎への移転経費や公共料金の水準を一時的に保つための経費としてのみ活用
公債費負担格差是正のための需要に対する特別交付税措置
合併協議会設置など合併準備経費のための特別交付税措置
都道府県が合併支援をおこなった場合の特別交付税措置
[2]合併特例債の創設
合併後の市町村まちづくり建設事業に対する財政措置、充当率95%、元利償還率70%(静岡市と清水市の場合、年間40億円…上限、10年間)
事業費総額=(乗数×増加人口+定数)×補正率α(3つ以上の自治体が合併する場合に適用)×補正率β(8万人未満の自治体合併に適用)
[3]市町村合併補助金
法定合併協議会での合併準備のために一律500万円補助
2005年3月までに合併した市町村の事業(3ヶ年を限度)への補助金(人口10万人以上で1億円程度)
[4]地方税の特例(未実現の課税自主権)
合併年度と続く3ヶ年度に限り地方税の不均一の課税が認められる。
(2)市町村合併推進のための財政支援措置の拡大(01年3月「新指針」)
[1]補助金
都道府県体制整備費補助金 要綱をふまえた取り組みに対して都道府県あたり2000万円補助
合併準備補助金 99年度以降に設置された合併協議会構成自治体へ500万円を上限とする定額補助
合併市町村補助金 2005年度までに合併した自治体への補助金 (3年を限度。人口規模に応じた補助)
[2]税制上の措置
不均一課税をできる期間の延長(3年から5年に)
事業所税、都市計画税を課税している自治体との合併で新たな課税が生じる場合、5年間課税免除。新たに30万人以上の市となった場合5年間は課税団体としない。
(3)合併特例法に盛り込まれたその他の特例
・議会の議員の定数・在任に関する特例
新設合併の場合…定数特例を活用すれば(議員定数の2倍まで定員増、最初の任期) 在任特例を活用すれば(合併前の議員が2年まで在任可能)
編入合併の場合…定数特例を活用すれば(増員選挙を実施) 在任特例を活用すれば(編入先の委員の任期まで在任可能)
・過疎法指定市町村の合併…過疎法上の措置を適用
★総じて、地方債と交付税措置が中心で補助金は少額。交付税の特例期間終了後には、財政規模が縮小するため、行政サービスの合理化が余儀なくされる。
合併特例債中心の公共事業拡大政策の展開…合併直後は財政規模が拡大(借金が拡大)
この財政支援策は、昭和の合併時と酷似。以下検証。

2.昭和の大合併当時の検証

(1)戦後改革からシャウプ勧告まで
・1947年 6・3制義務教育実施、自治体警察発足→町村財政の領域の拡大、経費の激増
1949年から1953年までに自主的合併(京都、島根、千葉、岐阜など)盛ん。
27府県138町村
シャウプ勧告…市町村優先主義、自治体への事務と財源再配分、国や府県の監督排除
財政全体の民主的改革の一環に市町村合併を位置づける
・地方行政調査委員会議
1950年12月「行政事務再配分に関する勧告」 優先的に事務を配分される市町村の強化と町村の規模についての標準、人口7000-8000人を標準
[1] 住民へのサービスと諸施設の能率的経営からの人口と面積の関係を配慮する
[2] 学校、土木、社会福祉など重要事務について個別的に能率的な処理の可能な規模を検討し、それらに共通する規模をとる
[3] 町村職員の最も能率的経済的な定員配置を可能にする規模をとる
[4] 都市と農村は産業形態を異にするから、農村の都市への編入は慎重にすべき
[5] 一つの自治体を形成する基本要件として住民の共同意識の培養を考える 合併の形態も上から画一的に行うべきではなく、住民本位にそれぞれの町村、個々の利害得失について十分に検討することが条件。 「下から」の要求として町村合併促進法案が提起
(2)1953年町村合併促進法制定による強力な「上から」の合併へ(3年間の時限立法)
・1951年政令諮問委員会「行政制度の改革に関する答申」
行政事務の簡素化、行政機構の簡素化を狙いとし、地方自治強化・住民サービスの充実は考慮の対象外となる。
・1953年町村合併促進法の骨子
知事の諮問に応じて町村合併促進審議会設置、[1]知事の意見を聞き、議会の決議をへて新町村建設計画を策定し、内閣総理大臣に提出、[2]境界変更、配置分合に反対がある場合には住民投票などの手続きをとる、[3]町村議員の任期、定数に特例を認め、新たに選挙する場合には定数の2倍まで議員定数増可能、{4}財政上の特例措置(一定期間法に定める事業の地方債の起債許可、地方財政平衡交付金の額は関係町村が合併前の区域で存続した場合に算定された額の合算額を下回らないように算定する、一定期間の不均一課税など)など。施行後3年間有効の時限立法。1953年自治庁「町村合併促進本部」設置→全国画一的な合併へ、道州制が議論
・1956年新市町村建設促進法
未合併町村の合併促進について規定、国、府県、内閣総理大臣、知事の権限を拡大して町村合併を推進。
(3)3年間で町村数3分の1が数値目標に(9622→3373) 53年に9895あった町村のうち、町村合併促進法期限切れの1956年9月までに6152町村が姿を消した。進捗率は98%。12道府県(北海道、山形、栃木、新潟、長野、大阪、奈良、広島、徳島、福岡、宮崎、鹿児島)に集中。
(4)果たされなかった財政援助
新市町村建設計画が掲げる支所出張所や小中学校などの統合に伴う必要な施設に対して、予算の範囲内で、新市町村に補助金を交付、地方財政平衡交付金は地方交付税に改められ、基準財政需要額算定に「合併補正」によって臨時的な需要を考慮したのみ。
新市町村建設にかかる財源は、自治体の行財政運営合理化による経費節減によって捻出された自己財源に求めることとされた。
「合併町村は、努めて行財政の運営を合理化し、自己財源の捻出を図り、これによって新町村建設計画を実施することを建前とすべきこと」(自治庁、『町村合併促進関係資料』1954年)
合併町村が、1954年度の新町村建設計画に必要な経費として国に自治庁に提出した総額は、276億円であったが、自治庁はこれを161億円(58%)に圧縮。
(5)各地での反対運動の展開
道府県の策定したブロック計画に反対したケースが圧倒的。
住民の負担は増税、公共料金引き上げ、負債によって増大。
合併の結果…自治体の官僚化、役場・学校等の統廃合で不便になる、部落会・町内会
官僚機構末端への組み入れ、建設事業費の拡大と地方債の拡大

3.平成の合併の検証−静岡市と清水市合併計画の事例−

(1)静岡市と清水市の概要と新市建設計画 ・静岡市の概要
約47万1000人、第3次産業とくに卸売業中心の中核市、97年から人口減。昼間人口比の方が高い。市域面積は全国第二位。
中核市の指定により741件の事務委譲(県より)、一般財源負担増分約20億円(地方交付税増額分は10億8700万円)差引き年間9億円近い負担増
第一次、第二次合併期ともに周辺町村合併。戦後の旧安倍六カ村編入など。南アルプスを含む広大な農山村地域が市域に編入。「救済合併型」。
・清水市の概要
約23万7000人、夜間人口比率の方が高い(96.5%)、96年度から人口減に。
1924年市制施行、港湾都市として形成・発展。第2次産業比率が37%(静岡市に比べて8ポイント高い)。清水港における貿易額は、全国第7位。第一次、第二次合併ともに清水港開発計画を中心とした「開発指向型」
(2)政令指定都市構想、大規模プロジェクト計画から静清合併協議会の発足へ
89年 静岡経済同友会による静岡市議会への要請
91年 5市5町による政令指定都市研究会が発足(人口約100万人)(清水市側は合併には否定的、藤枝、焼津などでは別に広域行政懇談会)
93年 『政令指定都市調査研究報告書』提出 東静岡地域の新拠点開発構想とリンクして展開 旧国鉄東静岡駅跡地(8ha)の利用をめぐる公共投資の先行 
県:イベントホール「グランシップ」約500億円
静岡市:土地区画整理事業約377億円
97年 清水JCによる署名活動活発化(議員30人、市職員1944人削減計画、新交通システム、新都心開発、日の出ウオーターフロント開発構想
98年1月 両市合併協議会設置案可決 5月 第1回静岡市・清水市合併協議会
00年2月 新市グランドデザイン発表 追加投資10年間に1026億円が可能と試算 増加財源436億円、元利償還費の交付税額112億円、市債478億円(10年間)
01年5月 第20回静岡市・清水市合併協議会 6月 新市名称公募 7月 新市建設計画公表 新幹線駅移転事業など、都市基盤整備は静岡市中心、清水市はハコモノ。 11月 住民投票条例をめぐる署名活動
02年1月 住民投票条例制定をもとめる署名約10万人分両市議会へ提出 両議会で否決、有権者対象のアンケート結果、合併反対の方が多数
・静清合併→東静岡中心の新拠点開発→(5市5町合併)→政令指定都市→国際空港都市 →中部地域の経済発展というシナリオ。
・63年に5市合併によって成立した北九州市の場合にもバラ色の開発構想。しかし、小倉以外の地域は相対的に衰退。現在は、小倉への重点投資(「100万都市の顔づくり」、都市インフラの集中)。都市銀行は小倉以外の支店を廃止(合併前23の支店のうち70年までに12支店減少、うち9支店が小倉に移転)。市職員1200人削減(67から72年)。
・救済合併論中心の静岡市と開発指向型の清水市で対立
(3)新市建設計画の策定と財政 ・現行総合計画(「第8次静岡市総合計画(1999-2003年度)」、「第3次清水市総合計画(1989-2001年度)」、「静岡県新世紀創造計画(1995-2004年度)」)
・理念なき新市建設計画(5500億円) 新幹線停車駅移転のための調査費、庁舎移転(東静岡駅) 大規模清掃工場建設(清水市) バーチャル水族館・オペラハウス(100億円)、羽衣美術館など、ハコモノ乱立
・合併協による歳入・歳出見込み額の推計(99年3月) 2000-2010年度までの推計 両市財政の単純合計額に合併による増加財源を加算増加財源 年間約38億円から46億円を見込んでいる。合計436億円 ・行政サービスと公共料金の比較から 人口47万人の静岡市よりも人口24万人の清水市の方が一人あたり歳出額が低いにもかかわらず、ソフト面での行政サービスの質、公共料金の設定、事業者負担の明確化といった点で勝っている点が多くみられる。このことは狭域的サービスにおいては、合併が行政サービスの質的向上や効率性の万能薬ではないことを示すものと思われる。公共料金格差のための特別交付税措置は合併後3年に限られているため、その後、受益者負担という観点から、高い方に合わせて引き上げざるを得ない構造になっている。

4.潮来市(潮来町・牛堀町合併)の事例

(1)合併に至る経緯と財政比較
鹿島臨海地域へのアクセス、東関東自動車道、国道51号線バイパスの計画 潮来町25700人、牛堀町6100人(合併後に31800人)
合併特例法による市昇格要件の規制緩和の影響、急ピッチで合併
人口社会減…来町では90年代半ばから、牛堀町では80年代半ばから社会減の段階
高齢化…潮来町では、85年から95年間に高齢者人口が54%増加
・基本的な行財政指標の比較
歳出決算額でみた財政規模(98年度)…潮来町が75億円、牛堀町が32億円
職員数…潮来町で235人、牛堀町で100人(合併後の総計は335人)
財政力指数…潮来町で0.497、牛堀町で0.372(合併後の2001年度に0.466)
地方交付税の割合…潮来町では30%、牛堀町では38%
地方交付税額…潮来町が26億8885万円、牛堀町が13億3763万円、単純な合算額は40億円
合併特例法による10年間の特例期間がすぎれば地方交付税が大幅に減収 一般財源支出を伴う行政サービスの合理化が急務とされている。
一人あたり地方債額…潮来町で64万円、牛堀町で92万円と
合併後の合併特例債…10年間に上限84億円
・任意合併協議会『潮来町・牛堀町行政内容分析調書』(98年)
地域開発やモータリゼーションの進展に伴う生活圏域の広域化への対応
介護保険に代表される高齢社会への対応
地方分権に対応して簡素で効率的な行政の確立
地域のイメージアップ、道路、産業基盤を中心とする広域的なまちづくり、行財政の効率化による人件費カット、施設の統廃合、学校給食などのサービスの集約化が可能になるという点が強調
(2)新市建設計画(潮来・牛堀まちづくり計画)
総事業費309億円の5ヶ年計画
重点施策…都市基盤の整備
産業基盤整備
幹線道路の整備(東関東自動車道や国道51号線、国道355線バイパスと潮来町浅間下地区を結ぶ新たな県道)約50億円
産業の振興(「道の駅」整備事業を中心に11億円)、市街地整備は5億円
生活基盤整備
下水道事業54億円とごみ処理施設整備46億円が中心)
小学校の統合建て替え(牛堀町にある3つの小学校統廃合による新設)
給食センター建設(自校方式を採用している牛堀町の学校給食をセンター方式に切り替える事業)を中心に65億円
保健・医療・福祉関係ではエンゼルプランの作成や児童福祉運営委託を中心に36億円、庁舎の統合による新庁舎建設には24億円、コミュニティの推進に1億円
介護保険については、介護保険計画や介護保険繰出金などに7億円
☆特徴 人件費カットを含む行財政の効率化や学校・幼稚園・保育所を中心とする施設の統廃合
(3) 合併後の財政問題
・合併前の起債実績8.8億円(98年度)
合併後の2001年度には22.8億円にまで膨らむ見通し ・潮来町・牛堀町と潮来市予算の比較(表2)
財政規模が約1.3倍(プラス約40億円)に膨れ上っていること
★合併に際して一時的に増加した国のひもつき補助金の動向が、自治体財政構造に大きな 影響を及ぼしたことを示すもの。裏負担の増加と自治体の超過負担の拡大。
★地方債 合併前の6億1100万円から実に6.4倍にあたる38億8690万円もの巨額の起債
40億円も財政規模が拡大した最大の要因
その内訳…一般廃棄物処理事業債が15億円、合併特例債が7億円、地域活力創出事業6億円、義務教育施設整備事業債が5億円、臨時地方道整備事業が2億円
新市まちづくり計画にしたがって、清掃工場や教育施設整備をはじめとする地方債が初年度に一斉に発行。計画段階で掲げられた22億8000万円をも大きく上回る起債額。

5.中核市指定あるいは政令指定都市化に伴う事務・財源再配分

(1)地方交付税の特例
・地方交付税の特例期間は10年。その後漸次縮小。15年後にかなり縮小。例外的に99年特例法を適用されることになったあきる野市では、15年後に9億円減少と試算。
・自治事務(とくに教育、福祉面)への合理化推進誘因に。
(2) 中核市指定(清水市側)にともなう財政上の問題点
・静岡県から清水市へ741件の事務委譲、地方交付税による一部補填と措置不足額の発生  県単事業の委譲分は地方交付税の対象外  事業所税導入、市民税均等割500円引き上げ(特例法適用によれば5年後に実施)
(3)政令指定都市制度における事務・財源再配分上の問題点
[1]政令指定都市指定にともなう事務再配分と財源再配分
事務配分
・地方自治法252条の19の規定にもとづく児童福祉、老人福祉、生活保護、伝染病予防、環境衛生規制、都市計画、土地区画整理事業、社会福祉事業など18項目の事務、民生9項目、保健衛生6項目、都市計画・建設3項目
・地方自治法以外の個別法にもとづくものとして国・道府県道の管理(道路法)
・衛生研究所、定時制高校人件費、道府県費教職員の任免研修等
財源再配分
・特定財源として国から石油ガス譲与税、軽油引取税交付金、宝くじ発売収益金が交付、地方道路譲与税、自動車取得税交付金、交通安全対策特別交付金が増額
[2]政令指定都市の事例
・大阪市(00年度当初予算)
特例経費一般財源所要額 779億円
税制上の措置済額 213億円
税制上の措置不足額 566億円
事務配分に比べて財源配分が少ないことが大きな特徴。
・広島市の場合
71年から74年にかけて13町村編入。80年に指定市への移行後、財政問題が表面化
広島市では交付税は80億円増加したが、合併前の交付税合算額と比べると少額。
増加した道路特定財源のうち大半は、国施行の道路整備事業負担金に。
土木費など地方単独事業の拡大(合併前の2倍以上)、教育費は40億円削減、社会教育施設は民間委託。
75年から81人にかけて保育料などの手数料・使用料収入は2倍以上に増加(30億円→70億円)。
・仙台市の場合
87年から88年にかけて1市2町編入。編入後も「不交付団体」。政令市への移行後、交付団体に(財政力が低下)
89年から10年間、需要増に伴う8662億円の増加分の大半が、新庁舎を含む地方単独事業(76%)に。市債の累積残高は4倍。746億円の仙台市駅前の市街地再開発ビルの保留床処分すすまず、赤字が累積。
旧泉市などでは支所・出張所廃止、固定資産税評価額引き上げによる増税。
一方、保育所待機児童1000人超える。
[3]国庫補助負担金における超過負担問題
・大阪市の場合(00年度当初予算)
保育所運営費(児童1人当たり月額)39,888円の差額
特別養護老人ホーム(定員100人、1ヶ所当たり)7億3600万円の差額
小・中学校校舎建設費(1校当たり)56,274円の差額など
合計214億円近い国庫支出金の超過負担
・静岡市の場合(98年度決算)
教育、福祉を中心に、国庫支出金で70億円以上、県支出金で14億円以上の超過負担が発生
・合併による政令指定都市化あるいは中核市化により超過負担も拡大
現行制度のもとでは、保育所運営費、国民年金事務費、特別養護老人ホーム整備事業費、ごみ処理施設建設費、小・中学校校舎建設費等において、国の基準がきわめて低いために、単価差、数量差、対象差による超過負担発生。
道路新設改良費、都市改造費、新拠点都市整備費、漁港整備事業費などは超過負担なし。

おわりに

(1)広域行政への対応と道州制
広域行政への対応としての市町村合併、府県の空洞化→府県合併と道州制導入の論理、事実上の政府・総務省主導型市町村合併推進=中央集権型官僚システムそのもの
(2)狭域的な社会サービスの質と自治体財政規模
大規模市町村合併の場合、合併しない方が比較的低コストで高質のサービスを供給可能。エリアを超える場合、両市の提携や協議会、一部事務組合方式、広域連合や県が対応するという現行制度でも対応可能。ただし現行制度のもつ問題の改革等が必要。
(3)税源委譲、課税自主権と一般財源の保障へ
権限委譲と税源委譲、住民参加の制度化などを通じた真の地方分権こそ追求されるべき。現行合併特例法は効率化とも矛盾
スウェーデンでは、市町村合併の際に思い切った権限と税源委譲、トロントでは課税自主権の拡大、市町村合併は地方自治強化、住民サービス向上、財政民主的改革を前提とすべき、昭和の大合併の教訓
(4)情報公開、学習会と住民投票の制度化
法定合併協議会方式…合併の是非が問われず、合併が前提。
任意合併協議会方式…ほとんど非公開
合併の是非を問う住民投票制度化が一つの課題
上尾市の事例
(5)財政再建と内発的発展のシナリオ
☆長野県佐久地域の事例
医療を軸にした地域連携、高付加価値の地場産業に着目
☆スモールイズビューティフル、維持可能な社会(サステイナブルソサイエティ)へ
欧米では、基礎的自治体の規模は小さい。大都市ではコミュニティごとの住民参加が制度化。豪州のクイーンズランド州では、市町村合併はペナルティ。
☆維持可能なコミュニティ主体の自治へ、分権型協同福祉社会へ、狭域行政の提唱
コミュニティづくりがキーワードの時代、モノづくりからヒトづくりへの転換
☆内発的発展のために。学習型の住民運動こそ重要
外来型開発、大規模開発主義、土建国家からの転換、質を問う時代 自治体と協同組合(NPO)やボランティアとのパートナーシップによるサービスの質的向上、コミュニティに根ざした地域の技術・経営、文化を継承しつつ新しい経営組織の形成 歴史的遺産や自然などの地域固有財をいかに生かすか
【参考】川瀬憲子『市町村合併と自治体の財政』自治体研究社、2001年
川瀬憲子「財政からみた市町村合併−静岡市・清水市合併計画と潮来市の事例−」『地方自治職員研修』臨時増刊号、2002年3月
重森暁・関野満夫・川瀬憲子『地方交付税の改革課題』自治体研究社、2002年など

☆まとめ

・静岡市・清水市では、合併特例法改正以降の財政支援策拡充によって、合併特例債などを活用した新都心拠点開発を中心とする大規模プロジェクトが進行。潮来市では、合併直後に起債額が6倍に。しかし、その一方で、狭域的行政サービスの多くは合理化の対象となり、アウトソーシング、公共施設の統廃合、人件費の削減、公共料金の引き上げ、場合によっては増税(住民税均等割、事業所税など)が必然的に行われることになる。これは、合併にともなう交付税措置や特別交付税措置の期間が限られていることや、事務配分に比べて財源配分が少ないために交付税依存型にならざるをえず、交付税改革の影響が大きくなるためである。
したがって、国による市町村合併奨励のための財政支援策は地方財政構造にゆがみを生じさせることになる。自主財源の拡充、財源保障に向けての交付税のあり方の見直し、課税自主権の拡大などを通じた分権改革こそ重要課題であり、合併による住民サービスへの影響や租税・公共料金負担も含めた総合的な検討を行いうるような情報公開の徹底化、合併の是非を問う住民投票などの民主主義手続きが不可欠である。